2020/08/12(水)
【相続事例④】残された銀行通帳。追徴課税の可能性があるの?
<事例概要>亡くなった父が残してくれた銀行通帳。毎年の預金額は贈与税の基礎控除の範囲内だったのに、相続税を追徴課税されたのはなぜ?
和田明美さん(仮名51歳)は最近、お父さんが急病で亡くなりました。自宅など遺産はすべてお母さんが相続することにしましたが、銀行の貸金庫を調べてみると明美さん名義で1000万円ほど残高のある預金通帳が出てきました。独身の和田さんのために、お父さんが少しずつ積み立ててくれていたものでした。
「知り合いに聞いたところ、毎年の預金額は110万円の贈与税の基礎控除の範囲内だし、貰っておけばいいんじゃないと言われ、そうなんだと思っていました。ところがその後、税務署の調査があって、その通帳のお金は父の遺産の一部で相続税がかかるといわれてびっくり。おまけに追徴課税までされたんです」
納得がいかない様子の和田さんですが、そこにはいくつかの勘違いがあるようです。
<状況解説>
相続税は、亡くなった人(被相続人)が所有していた財産に対してかかるものです。他人名義の財産は関係ないのが基本です。
ただし、亡くなった人(被相続人)が所有していたということと、財産の名義とは別です。他人名義になっていても、実質的に亡くなった人(被相続人)が所有していた財産であると認められる場合、その財産も相続税の対象となります。
典型的なのが、和田さんのケースのような「名義預金」です。「名義預金」とは、他人名義になっているけれど実際には本人が資金を出している預金です。似たようなものとして、「名義株式」もあります。こちらは、他人が所有していることになっているけれど実際には本人が所有しているとみなされる株式のことです。
国税庁のホームページでは、「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」の中に「事例⑥被相続人以外の名義の財産(預貯金)」として取り上げられており、そのコメントには下記のようにあります。
「名義にかかわらず、被相続人が取得等のための資金を拠出していたことなどから被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象となります。したがって、被相続人が購入(新築)した不動産でまだ登記をしていないものや、被相続人の財産と認められる預貯金、株式、公社債、貸付信託や証券投資信託の受益証券等で家族の名義や無記名のものなどの被相続人名義以外のものも、相続税の申告に含める必要があります。」
国税庁のデータでは、相続税の申告があったうち4件に1件ほどの割合で税務調査が入り、税務調査が行われたうち8割ほどで申告漏れが指摘されています。その中で断然多いのが、「名義預金」と「名義株式」だといわれています。
<素朴な疑問>
和田さんの場合、毎年、お父さんが預金していたのは贈与税の基礎控除額である110万円以下なので、贈与だったのではないかという疑問もあるようです。現在、贈与税の計算方法には、「暦年贈与」と「相続時精算課税」の2つがあり、「暦年贈与」では確かに年間110万円以下の贈与は非課税です。
しかし、贈与というのは、贈与する側と受け取る側の双方の意思が合致してはじめて有効に成立します。和田さんのようにお父さんが勝手に贈与のつもりで預金していても、和田さん本人がそのことを認識していなければ贈与にはあたらず、110万円の基礎控除も関係ありません。
なお、税務署は「名義預金」や「名義株式」に当たるかどうかについては、いま触れた双方の意思の合致のほか、通帳や株券を誰が管理していたのか、利息や配当は誰が受け取っていたのか、といったことも合わせて総合的に判断します。
<追記>
厳しいですが和田さんの場合、亡くなったお父さんが親心からしてくれたこととはいえ、生前にきちんと贈与の手続きを取っておけば無用のトラブルを避けられたといえるでしょう。
お金の話は親子でもしづらいことですが、相続・贈与についてはしっかりと向き合って一緒に考えることは何よりも大切なことです。
対面での面談やオンラインの面談を希望する方はこちらから