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2020/08/12(水)

【相続事例②】遺産相続。親が認知症になった時の対処法は?

後見制度 相続 認知症 遺産分割

<事例概要>父が亡くなり、遺産分割したいが母は認知症。どう対応すればいい?

埼玉県にお住いの林洋子さん(仮名55歳)。最近、お父さんが亡くなり、お母さんと洋子さんの2人が自宅などの遺産を相続することになりました。ところが洋子さんのお母さん(82歳)は3年ほど前から軽い認知症があり、年々症状は重くなる一方です。

「父が亡くなる半年ほど前からは、意思疎通も難しくなっています。四十九日を済ませ、いざ遺産分割の手続きをしようとなったところで、そういえば母には署名や捺印は無理だと気がついたんです」

こういうときはいったいどうしたらいいのか、洋子さんは戸惑いを隠せない様子です。

<状況解説>

相続につきものなのが、遺産分割です。有効な遺言がない限り、亡くなった人が生前に所有していた財産(遺産)はまず、法定相続人の間で、法定相続分の割合に応じた「共有」となります。

不動産にしろ預貯金にしろ、共有の財産は基本的に共有者全員の同意がないと処分できません。そこで、相続人の間で協議を行い、誰がどの遺産を、どのような割合で引き継ぐかを決めるのです。これが「遺産分割」です。

遺産分割の割合は、相続人どうしの話し合いで決めます。法定相続分でもいいですし、それとは違う割合でも構いません。林さんのように、お父さんが亡くなりお母さんが存命の場合、自宅などはお母さんが相続し、住み続けるという分け方をすることが多いかと思います。

いずれにしろ遺産分割においては、相続人が協議を行い、同意することが前提となります。同意(実際には遺産分割協議書への署名、捺印)によって法的な効果が生じるわけです。こうした手続きは「法律行為」と呼ばれ、本人には「意思能力」が必要とされます。

「意思能力」とは、自分が行った法律行為の結果、どのような法的な効果が生じるのかを判断できる精神的な能力のことです。意思能力のない人が行った法律行為は「無効」となります。例えば、幼児には意思能力がないですし、飲酒で酩酊状態にある人も一時的に意思能力がないと判断されます。

林さんのお母さんのような認知症の人も、その程度によって意思能力が問題となります。普段から意思疎通が難しいようであれば、意思能力が認められない可能性が高いのではないでしょうか。

そうした場合、どうしたらよいのでしょうか?

<解決方法の一例>

基本的には、意思能力が不十分な人を保護するための成年後見制度を利用することになると思います。成年後見制度には大きく分けて法定後見制度と任意後見制度の2つがありますが、相続の遺産分割協議では通常、法定後見制度を使います。

法定後見制度では、本人または親族が家庭裁判所に申立を行います。そして、裁判所が選任した成年後見人が本人に代わって、遺産分割協議に参加するのです。しかし、遺産分割協議において成年後見制度を利用するには注意点があります。

一般的に成年後見人には親族が選任されることが多いのですが、遺産分割協議においては、意思能力が不十分な人(本人)と同じ相続人の立場にある親族は利益相反になるため成年後見人に選ばれなかったり、特別代理人を別に選ばなければならなかったりします。

そこで、相続人ではない親族、例えばおじ、おばに頼むということが考えられます。ただ、成年後見人を頼めるような親しい親族がいるかどうかは分かりませんし、また、成年後見人はあくまで本人の利益のために行動することが求められるので、遺産分割協議において柔軟な判断(例えば、将来の二次相続での相続税を抑えるため子が多く相続する、など)ができません。

成年後見人としては、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることもよくあります。ただ、その場合も遺産分割協議において柔軟な判断はできませんし、特に本人が亡くなるまで報酬の支払いが必要になります。

そこで、もうひとつの方法として考えられるのは、遺産分割協議は行わず、法定相続人による共有のままにしておくことです。共有財産である遺産の処分は基本的にはできませんが、林さんのようにお母さんと林さんだけが相続人であれば、いずれ林さんがお母さんの共有分を相続することになります。

<追記>

このように、認知症の相続人がいて遺産分割をすることができないと様々な問題が生じます。林さんの場合も、お父さんが存命中に予め遺言で遺産の処分について決めておくことができればよかったのかもしれません。

高齢化が進む日本では、今後もこうしたケースが増えるのは間違いありません。できるだけ早い時期から考えておくべきです。

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