2020/08/12(水)
【相続事例③】相続税対策で建てたアパートを引き継いだら?
<事例概要>父が20年前、相続税対策で建てたアパート。 相続で引き継いだけど、どうしたらいい?
会社員の山崎勝さん(仮名47歳)は最近、お父さんが急病で亡くなりました。自宅と預貯金はお母さんが相続し、ほかの不動産などを山崎さんが相続することにしたそうです。
その中に、お父さんが20年ほど前に建てたアパートがあります。農業を営んでいたお父さんに、地元の信用金庫と建設会社が猛烈にアプローチ。相続税対策になるからとほぼ全額ローンで建てたものです。
「父は当初、サブリースで手間もかからず、農業以外の安定収入ができたと自慢していました。でも、10年くらい前からは何も言わなくなり、亡くなる前には『失敗だった』と口にすることもありました。学生のとき実家を離れてからいままで、詳しいことは知らないままでしたが、相続を機にいろいろ調べてみたら、空室が増えているし、ローンもまだ残っている状態。どうしたらいいか困っています」
<状況解説>
山崎さんのお父さんのように、相続税対策として所有する農地や青空駐車場にローンでアパートを建てたり、あるいは土地と建物(賃貸マンションなど)をまとめてローンで購入するケースは、地価の高い都市部を中心に以前から全国各地で見られます。特に近年では、2015年1月に相続税が改正され、相続税がかからない範囲を左右する基礎控除額が4割も引き下げられたことで大きく増えました。
相続税の税額を算出するにあたっては、ひとつひとつの遺産の価値(評価額)を確定しなければなりません。そこで国税庁では「財産評価基本通達」というルールを定めています。その原則は、相続が発生した時点での「時価」で評価するということ。
現金や預貯金、上場株式は分かりやすいですが、土地や建物といった不動産は簡単には分かりません。そこで、土地については各地の税務署が定める路線価という目安を使ったり、建物については市町村による固定資産税評価額を用いることになっています。
こうした土地や建物の評価方法は、簡便性と公平性を優先したもので、実際の市場での取引価格や建築費などより平均2~3割ほど低くなるようです。さらに、アパートや賃貸マンションが建っている土地については、借家人がいることで利用が制限されることから、相続税評価額がさらに低くなるようになっています。
その結果、青空駐車場などのままにしておくより、アパートや賃貸マンションを建てると相続税の評価において有利だということで、ブームになったのです。
しかし、いくら相続税の評価において有利だとしても、アパートや賃貸マンションを持つということは不動産賃貸業を行うということであり、借りる人がいて、家賃収入があってはじめて事業として成り立ちます。
少子高齢化が進み、人口も減り始めている日本ではいま、全国的に空き家が増えています。総務省が5年ごとにまとめている「住宅・土地統計調査」の最新版(平成30年)によれば、全国で空き家は850万戸ほどあり、その半分は賃貸用住宅です。
空室が増え、賃料が下がり、さらにローンも残っていると、アパートや賃貸マンションは赤字を垂れ流すだけの「負動産」になってしまいます。
山崎さんもその可能性があります。どうしたらいいのでしょうか。
<解決方法の一例>
まずは、現状確認からはじめるべきです。相続を理由にアパートの土地、建物の登記名義を変更したら、入居者に貸主(大家)が変わったことや新しい振込先などを連絡します。あわせて、賃貸借契約で敷金の額を確認します。入居者が賃貸借契約を解除し、退去する際、お父さんが預かっていた敷金は山崎さんが代わって返還しなければならないからです。
また、ローンを借りている銀行と交渉し、ローンの債務名義の変更を行います。その際、場合によってはもう一人の相続人であるお母さんが連帯保証人になることや、追加の担保を要求されることもあるかもしれません。
次に、アパートの今後の収支について検討します。
現状、空室が増えているとのことですが、家賃収入でローンの元利返済や固定資産税等の支出をカバーできているかどうか、周辺の賃貸住宅市場の状況はどうか、今後増えてくるであろうメンテナンスや補修費はどれくらいになりそうか、などがポイントです。
もし、リフォーム等を行って競争力を高めれば空室が埋まり、収支が改善する可能性があれば、そのまま所有してもいいかもしれません。逆に、リフォーム等を行ってもコストに見合う収支改善が見込めず、ジリ貧になりかねない場合は、この際、思い切って売却するという選択もありえるでしょう。
築20年を超えると建物はおそらく市場での価値はほとんどないでしょうが、土地はもともと自己所有ですから、売却益が出るでしょう。その売却益でローンの残りを完済できれば、赤字が続くリスクはなくなります。
厳しい選択になるかもしれませんが、ズルズル先延ばしするより、早めの決断がよい結果をもたらすはずです。
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