2020/08/13(木)
【介護事例③】介護の負担が自分にだけ大きい、不公平では?
<事例概要>母親の介護が必要になったのに、遠方に暮らす兄弟は何も手伝わない。不公平じゃない?
福岡県に住む名取福子さん(仮名56歳)は、近くに住む母親の介護を3年ほど前からしています。父は10年以上前に亡くなり、一人暮らしの長い母親は80歳を過ぎてから少しずつ体力が落ちてきて、最近は認知症の気配もあります。
「要介護2の認定を受け、デイケアに通ったりしていますが、普段の身の回りのことは私が毎日のように手伝っています。兄と弟もいるのですが、東京と大阪に住んでいて母のことは私に任せっきり。忙しいといって帰省もしなくなりました。要介護度が進んだらどうなるのか、お金もかかるのではないか、だんだん心配になってきました」
何も手伝わない兄と弟に対しては、不公平も感じるという名取さん。どうしたらいいのでしょうか。
<状況解説>
親の介護を巡って、兄弟の間でトラブルになることは珍しくありません。介護保険が利用できるとはいえ、身の回りの世話や金銭的な補助が必要なこともあり、その負担を誰が、どのように分担するかでもめるのです。
かつての日本では、長男が親と同居し、長男の妻が親の介護を引き受けるというケースが多かったとされます。しかし、少子高齢化が進み、いまや共働きも当たり前。兄弟それぞれが各々の生活に追われ、誰も積極的に介護を引き受けようとしないことも珍しくありません。
仕方なく誰かが引き受けると、逆に他の兄弟は任せっきりになったりもします。そうなると、介護を引き受けた人には不平不満がたまる一方。それが将来、遺産分割でもめる原因にもなったりします。
親の介護といっても具体的には、身の回りの世話をすることと、介護に必要な資金の一部を負担することの2つに分けられます。身の回りの世話については、名取さんのようにどうしても近くに住んでいる兄弟が行うことになるケースが多いでしょう。
ただ、最近は多くの会社が社員の介護休暇を積極的に認めるようになっており、東京と大阪にいるというお兄さんと弟さんにそうした制度を使って時々、代わってもらえないか打診してみるとよいでしょう。
介護の資金については、介護保険を利用するにしても1割ないし2割の自己負担がありますし、その他ヘルパーを頼んだり、身の回り品を購入したりするお金もかかります。これについては、本人(名取さんの場合であればお母さん)の年金や預貯金からまず支出するのが基本です。しかし、要介護度が上がってきたりすると、それだけでは不足することもあるでしょう。
名取さんの場合、まずお母さんの年金と預貯金の額を確認し、将来、不足するようならいまのうちからお兄さんと弟さんと一緒に“介護預金”といった名目で毎月、数万円ずつでいいので積み立てておくといった方法が考えられます。
なお、介護の資金では、お母さんの年金や預貯金から支出するのが基本ですが、具体的にいつ、どのような目的に使ったかは、記録を残しておきましょう。心配のし過ぎかもしれませんが、介護をしていない兄弟から「勝手に使っているのでは」といったあらぬ疑いをかけられないようにするためです。
こうしたことは兄弟間の話し合いで解決できればいいのですが、中には応じてもらえないこともあるでしょう。できればあって欲しくないことですが、その場合は法的手段に訴えるという選択肢もあります。
民法(第877条および第888条)では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」「扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める」と定めています。
具体的には、家庭裁判所にまず調停を申し立て、調停で合意できなければ「審判」、さらに不服があれば通常の裁判で争うことになります。
<追記>
お金の話題は身近な人ほどしづらいものです。しかしだからといって我慢すれば報われるというわけでもありません。できれば余裕があるときに対処しておきたいことですが、現実的には事態に直面して初めて対応することの方が多いでしょう。
大切なことは一人で抱え込まないことです。悩んでいる時は第三者でもいいので話を聞いてもらう人を探しましょう。
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